4.2 MBAで習う必須科目には最適な学習順序がある! -戦略とは?

4.2 MBAで習う必須科目には最適な学習順序がある!

MBA2年間で習う必須科目

私が2年間のMBAで学んだコア(必須)科目は、経済学、統計学、会計学、ファイナンス、マーケティング、企業組織論、オペレーション、戦略体系、戦略マネージメント、哲学の10個である。とりあえず哲学はおいておいて、残りの9つについて一体何を学んだのか。またMBAが進むにつれて、別々に学んだそれぞれの科目通しの共通点も数多く見えてくる。このページでは、MBA必須科目9つの相対的な関係性を独自のマトリックスで把握したのち、理想の学習順序について私なりの提案をしたいと思う。なお、各枝葉の説明までは出来ないので、多少専門用語やら各種のフレームワークの名前が説明なしで色々飛び出すことはあらかじめご了承いただきたい。

さて議論に先立ち、MBAのコア中のコアとして考えられるのが、企業における「戦略」そして「戦略論(歴史的背景)」である。まずは戦略論を語る前に、戦略とはそもそも何かを整理しておきたい。

 

MBAでいう「戦略」とは

戦略の定義は非常に幅広く、分野ごとにそれぞれ定義も異なるため、なかなか簡単に表現できない。日常会話で戦略といえば、ただの計画や方法といった程度に簡単に使っているかもしれない(例えば、「飲み会を途中で切り上げる戦略」など)。しかし、MBAでいう戦略とはもう少々堅苦しい。私が考える戦略とは、「競合他社に対して競争優位を確立しつつ、企業が持続的に収益を上げ続けるための需要サイドと供給サイド双方からなる方法論」である。ポイントは2つ。1つ目が、ビジネスモデルとの違いである。基本的にビジネスモデルはお金を稼ぐ仕組みを表現したものであるが戦略ではない。全く同一のビジネスモデルでも成功する企業も、失敗する企業もある。何故ならばビジネスモデルには「競争」や「競争優位」という観点が抜けているからである。戦略は常に競争相手との相対的な関係のなかで論じられるものである。2点目が、マーケティングとの違いである。マーケティングは顧客の需要(需要サイド)に注目し特別な商品やサービスを考える視点であり、3C、PESTEL、SWOT、5Forces、差別化などは基本的にすべてこちら側に分類される。顧客が何を求めているのかが分かれば戦略(のようなものが)が立てられると思うかもしれない。しかし戦略は、顧客により優れた価値を提供する方法論だけではなく、(それを実現するための)企業内部の体系や組織、文化をどうすべきかという観点までをも包括したものになる。この2つのポイントを踏まえられている計画なり、考え方であれば、上記の(私なりの)定義と多少違っていてもそれは「戦略」と呼べるとものだと考える。

 

戦略論とは

戦略に続き、「戦略論」とは何か?戦略論とは、戦略とは何かを考える「考え方」「観点」を指すもの。戦略という考え方が出てきたのは、古くは1965年のAnsoffの論文位まで遡ることができる。そして過去からの脈々とした歴史の中で色々な議論がある。ちなみにその歴史こそが、MBAの歴史といって過言ではない。ここでは簡単に戦略論の変遷を振り返っておきたい。大まかに言えば以下の4つの時代(世代)に分類できる。

1)ポーターのポジショニング論

2)バニーのリソースベースビュー(RBV)

3)不確実性の高い時代における戦略論(破壊的イノベーションなど)

4)新しい戦略論(Shared value, CSRなどの共有論)発展中の論理

先ほど、(私なりの)戦略の定義の中で「需要サイドと供給サイド双方からなる方法論」という言葉を使ったのだが、需要サイドというのが1)に対応している。簡単に言えば、顧客の目線からスタートして会社や企業を考えることである。例えば外部環境分析で有名なPESTELや、SWOT分析、5Forcesなどは全てどうやったら会社を取り巻く環境や競争相手の中で勝ち残れるのかを考えて(ポジショニング)、それから会社の中身を考えよう!というためのフレームワークである。「マーケティング」もその一部である。一方で、供給サイドというのが2)に対応する。供給サイドとはつまりは、今現在の会社内部の状況である。どんな優れた製品を有しているのか、どんな部署があるのか、どの専門に優れた人がいるのか、という企業内部にスポットを当てて、そこから戦略を考える方法である。例えば、コア・コンピュタンス、Capability、VRIO、PPM (Product Portfolo Management)などはこれらを実践するための考え方やフレームワークである。ここまでを簡単な言葉でまとめると、会社の中の様子を見て、うちの会社はこの分野や製品が強そうだからこれで勝負(競争)しよう!という感じが供給サイド。マーケティング的な感覚で顧客はこれを求めている、あるいはこの分野には競合他社が少ないからそこで勝負しよう!という感じが需要サイドという意味である。そして昔はどちらにすべき、どちらがより企業業績にとって重要な要因なのかで論争していた時代もあったのだが、現在では「どちらも重要」という結論に至っている。リチャード・ルメルトが1991年に発表した「How Much Does Industry Matter?(業界とはどれほど重要なのだろうか?)」という論文で、業界所属(需要サイド:ポジショニングによる要因)は、業績の約15%を説明し、約45%は特定の企業や事業に固有の何らかの要素(供給サイド:企業の内部の状態)に由来していることが実証された。さて、15%はあなたの会社を取り巻く環境や位置付けで業績が決まり、45%はあなたの会社の中の環境(組織構造、人、システム、文化、リーダーなど)で決まる。ともかく重要なのが、企業業績の(15%+45%=)60%は1)と2)の理論で説明がつくということである。

少々蛇足であるが、この60%を高いと考えるか低いと考えるかは人それぞれだと思う。MBAで実践的に習うことの多くは1)と2)であるので、「えっMBAって経営学の(ある意味)集大成でしょう!それを全て完璧に実践しても約60%しか影響ないの?」と思う人もいるだろう。あるいは逆に、「何も考えずに「経験と勘」で経営しているよりも、MBA出身者の方がはるかに成功する確率は高くなるんだー」と考える人もいるかもしれない。私個人としては、60%は非常に高いと感じている。なぜなら、事業経営ではどうしても防げない不確実性(リスク)として、例えば地震や台風などの天災や、突然の金融危機などがある。MBAを卒業して完璧な準備をして会社を設立した起業家が、会社の製品を初めて納入するまさにその日に大震災に遭遇し、全ての資材をなくしてしまいそれが理由で失敗することだって考えられる。それが何%か分からないが、つまり私が言いたいのはどんな経営者ももともと100%コントロールできない。もともと「経営者で何とかできる」のは90%か80%か分からないが、そうした不可避なリスクを除いた残りになる。それを考慮してもまだ60%まで高めらる(ポテンシャルがある)のであれば、非常に高いと考えていいのではないかと考える。

さて議論を戻すと、問題は残りの40%(のうち上記の不可避なリスクをの除いたもの)は一体何だろうか???ということである。そこで次に出てきた理論がヘンリー・ミンツバークの創発戦略など不確実性下における戦略論などだが、何と言っても有名なのが1997年のクレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンンマ」で登場する「破壊的イノベーション」のイノベーション理論である。説明は省略するが、どんなに優秀な企業でも、そのうちにはイノベーションを起こした劣位な企業に負けてしまうことがあるというものである。これに関連したHavrad Business Reviewの中には、日本企業が、なぜ世界的に成功を収められないのかという事例として多数登場する。3)の新しい戦略論が残りの40%のうち、何%をカバーできているのかはまだ正確に論証されていないが、少なくても追加で何割かは説明できていると考えられる。つまり1)2)に加えて、3)の理論の登場により、60%以上(60%+α)まで業績を高められる可能性が上がってきている。別の言い方をすれば、「戦略」もしくは「戦略論」のカバーできている範囲が時代とともに上がってきた(戦略の定義が拡張されてきた)と言える。なおこの頃になってくると、インターネットの普及という産業革命により、全くことなるタイプの成功企業が現れ始める。例えばAmazon、Facebook、Google、Airbnd、Uberなどのプラットフォーマー(Platform disruptor)と呼ばれる企業である。基本的にクリステンセンの破壊的イノベーションは需要サイドから見てある特定のパフォーマンスが革新的かどうかを語っている(判断する)わけだが、これらプラットフォーマーと呼ばれる企業は、そもそも需要サイドと供給サイド両方に価値を提供する2-side businessである。UberであればUberに乗るお客さんにも価値を提供しているが、同時にドライバーにも新たな雇用などという形で価値を提供している。そのため破壊的イノベーションの論法では、そもそも破壊的イノベーターかどうかの説明が難しいのである(クリステンセン自身は、Uberは破壊的イノベーションを起こした会社ではないと言っているが、逆の意見も飛び出すなど、専門家の間でも混乱するほどである)。ちなみに私は、破壊的イノベーションの論理は供給側から補完する必要があると思うが、彼の定義上、インターネットという技術をベースに「新たな価値(評価基準)」を生み出した(Peformanceの軸の中身自体を変えている時点で)Uberもやはりイノベーターであると解釈している。そして話を戦略論の歴史に戻すと、さらに最近では、3)の更に進化系というか、発展途上の分野として、Shared valueやCSR(日本で言われているCSRよりもはるかに広い意味)など社会全体への貢献(オープンソースなども含む)が新たな戦略の軸にもなりうるとする4)のような戦略論が登場している。このレベルはMBAで習うというよりは、研究者が研究しているレベルであり、私も詳しくは分からない。ただ例えば人工知能(AI)の研究分野では、ほとんど最新の研究成果がオープンになっておりどこでも誰でも最新の研究成果が閲覧できる。そしてオープンになっていない技術は、社会に浸透せず埋もれていく。従来の1)でいういかに差別化するかや、2)でいうコアコンピュタンス(模倣できないことが1つの重要な要素)だけでは、AIのビジネス戦略を簡単には語れなくなってきているのは事実であろう。

 

> 戦略論については、もう少し具体的に(できる限り簡単に)書いた「4.3 MBAで習う戦略をうどん屋さんで説明する」もぜひ参考にしてみてください。

 

MBAには勉強する理想的な順番がある

ここまでを踏まえて私が提案したいのが、MBAで学習する9つのコア科目の履修する最適な順番である。正直に言うと当時私は特に何も考えずに何となく授業が開催される曜日や時間帯などで選んでいっただけだが、特にちょうど1年目くらいから、それらの相互関係や共通点にも気が付き始めた一方で、それぞれの分野の関係性が見通せず、すっきりせず困惑した時期もあった。そこで、今改めて全ての科目を振り返り、私なりに9つの科目をMBAらしくポジショニングしてみることにした。MBAの得意技は、「何でもとりあえずマトリックスにする」ことである。私もそれを踏襲するため、2つの軸を用意した。1つ目の軸(横軸)が、汎用性(全体論なのか部分論なのか)である。経済学のような一般的な(マクロな)学問か、会社の一部の人が知っているような専門的な知識かどうかの度合いである。なお、MBAという学問自体が極めてマクロというか、企業に関する全体論を扱うため、ここで専門的と分類された内容も、世間一般には一般的な学問に過ぎないと思われるかもしれないが、あくまでもMBAの必須科目の中での相対的に位置付けた場合ということで理解していただきたい。2つ目の軸(縦軸)は、企業の内部の話か、それとも外部に関わることなのかであり、もう少しMBAらしく言えば、ポジショニング論的(需要サイドからの視点)の話をしているのか、会社内のリソース(RBV)的な話をしているのか、という軸である。そして、この2つの軸で9つの必須科目を<私の独断で>配置してみたのが下図「MBA必須科目ポジショニングマップ」である。なお、大学によって必須科目が何であるのか、またその内容も当然異なると思うが、このマップを用いていただければ、その科目の位置付けを確認することができると思うのでぜひ活用してみてほしい。

 

MBA必須科目ポジショニングマップ

 

さて、マップの左下は、非常に一般論的でかつ企業外部のことについて学習する科目を示している。典型的なのは、「マクロおよびミクロ経済学」や、「統計学」などである。戦略(戦略マネージメントとその一部である戦略体系)は先ほどより述べている通り、企業の内部と外部を両方兼ね備えている。また専門的というよりは、人事から会計、時にはM&Aなどかなりバランスした位置にあり、極めて総括的な学習であるため中央付近に位置するだろう。企業組織論は企業の内部、オペレーションも企業の内部へのフォーカスが強く、同時に徐々に専門的な分野になってくる(右側へシフト)。最も右側に寄ってくるのが会計学やファイナンス、マーケティングなどの専門学校でも習いそうな、その意味で専門的な学問類である。マーケティングは名前の通り顧客のニーズ(会社外部)にフォーカスしているため右下に位置する。ファイナンスは、新たな投資プロジェクトなど少々外部的でもあるため、少々上に位置する。おそらく「もうちょっと右だとか左だ」とかいう議論の余地は多分にあるだろうが、ここでは大まかに捉えられればそれで十分だと考える。本題は、ではどの順番で履修していくべきか?ということである。

私が考える一つの学習プロセスの流れを下図に示す。図は上記の図に学習プロセスを加筆したものである。まずは極めて一般的である「経済学と統計学」を先に制しておくと良いと思う。これはMBAの入り口という感じで基礎知識として必要である。次に横軸に着目すると、本来であれば「全体論」で全体を俯瞰したのち、枝葉の学問を勉強するのが良いと思われる。しかし、実際にはそれは難しい。例えば戦略マネージメントとは全ての科目を把握した人が、それら全ての知識を動員して考えるものだからである。よって、ここでは一般的な順序とは逆であるのを承知で、右から左へ流れていくしかない。つまり、マーケティング、ファイナンス、会計学を先に学習する。ファイナンスと会計学は非常に密接に関係しているので、同時期に勉強すべきである。次にマケーティングは縦軸の企業外部の典型であり、逆にオペレーションも企業組織論も供給サイドの強化に強く焦点が当たっている。どちらが先かは難しいが、ここは歴史の流れに合わせることにして、企業外部から企業内部にすべきと考える。つまり下から上である。そして最後に戦略体系(フレームワークの把握や使い方がメイン)、そしてそれを包含する戦略マネージメントを学習して全てをまとめる感じになる。

 

結局、理想的な順番をまとめると、(1)経済学、(2)統計学、(3)会計学、(4)ファイナンス、(5)マーケティング、(6)オペレーション、(7)企業組織論、(8)戦略体系、(9)戦略マネージメントの順番になる。

 

 

ということは、学習途中のほとんどの段階で各科目がMBAで扱う全体的な戦略の中でどういう位置付けなのかが分からないまま勉強を進めることになる。しかしそれは大変もったいない。全体の中での位置付けを多少でもいいので知ってから学習する方がはるかに学習意欲も高まるし、効果的であると考える。そこで、次のページでは、これらの各9科目がどのように関連し合っているのかについてもう少々具体的に説明していきたいと思う。

(まだ書きかです。)

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