2.1 MBAランキングの基本 – 絶対知るべき世界のMBAランキングの中身とは?
MBA留学の準備にあたり、最初に目標とする大学を設定する必要がある。そして、それを決める際に最も有力な方法が、「MBAランキング」の活用だろう。なぜなら、「MBAランキングが高い=生徒や企業等からの評価が高い=留学後に転職やキャリアアップに有利」という方程式が成り立つからだ。MBAで学ぶハードスキルは大学ごとに特色や違いはあるものの、基本的なコアとなっている学習内容は同じようなものである。つまりそれだけでは、MBAの違いを見つけ出すのは困難である。それに代わって、実際に「訓練の結果」として、卒業生がどのような評価を得ているのか、あるいは給料は上がったのか、人脈は広がったのかを評価したものの方が役に立つと言うわけである。よく留学予備校で「学校調査のための講義」などがあるが、私の記憶が確かであれば、ランキングの中身を教えてくれた記憶はない。そこで、このブログではランキングの基本をしっかり把握し、その上でそのランキングをどう活用すべきかについて議論していきたい。
有名な国内および世界のMBAランキング
まずはどんな有名ランキングがあるのだろうか?まずランキングはその国内の「国内ランキング」、と全世界を対象とした「世界ランキング」に分類できる。例えば、オーストラリアの場合、国内ランキングとして有名なのが、「GMAA – Five Star MBA Rankings」や「AFR Boss – MBA Rankings」である。アメリカであれば「US News」、「Bloomberg」、「Forbes」などがアメリカ国内向けのランキングである(一部他の国の評価もして場合もあるが、基本的にはアメリカ国内にフォーカスしている)。一方で、世界ランキングとして有名なのが、「Financial Times(FT)」、「Economist – Which MBA?」、「QS Global MBA Rankings」などのランキングがある。オーストラリアの場合、最初からオーストラリアだけに絞り込んでいる人では少ないと思うので、まずは世界ランキングを見ることをお勧めする。なお、これらの世界ランキングは基本的に100位以内までのランキングになっており、ランキング圏外であると順位が掴めないことに気をつける必要がある。
さて実際にランキングを見てみてほしい。下表はオーストラリアの主要な10校の各種のMBAランキングである。先ほど紹介した2つの国内ランキングと3つの世界ランキングを使って、相対的な順を調べたものである。するとある重大な事実に気がつくはずだ。ある大学の順位と、別会社のランキングでは異なる順位になっているということである。しかも、場合によってはその差は極めて大きい。例えば オーストラリアにあるMelbourne Business Schoolは、2018年のFTのランキングでは全体順位で66位(2017年は76位)、2017年のEconomistでは27位にランクインしている。MBA経験者なら、27位と76位の違いが、卒業後の転職やキャリアアップにいかに大きな違いであるか分かるはずだ。ここが日本の大学受験で使われる「偏差値」のような統一の指標とは根本的に異なる点であり、使用にあたって注意が必要な点である。例えば、大学の公式サイトには、世界ランキング〇〇位や、全米で〇〇位MBAを取得していますといった感じで書かれていることがあるが、それはもちろん大学側が、自分の大学を最も高く評価してくれているランキングを選別して使用していると考えておいた方がよい。
オーストラリア主要10MBAの各種ランキング比較; ( )内の数字は世界ランキングにおける順位
MBA course | GMAA 2017 | AFR Boss 2017 | FT 2018 | Economist 2017 | QS 2018 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
1 | Melbourne Business School | - | 3 | 2 (66) | 2 (27) | 1 (34) |
2 | AGSM at UNSW Business School | - | - | 1 (63) | - | 2 (39) |
3 | UQ Business School, University of Queensland | 5 stars | 2 | - | 1 (16) | 4 (in 120) |
4 | MGSM, Macquarie University | - | - | - | 3 (49) | 3 (in 110) |
5 | Griffith Business School, Griffith University | 5 stars | 4 | - | - | - |
6 | Queensland University of Technology | 5 stars | 6 | - | - | - |
7 | Adelaide Business School, University of Adelaide | 5 stars | 5 | - | - | - |
8 | University of South Australia Business School | 5 stars | 7 | - | - | - |
9 | Bond Business School | - | 10 | - | - | 6 (in 200) |
10 | Sydney Business School, University of Wollongong | 5 stars | 13 | - | - | 9 (in 200) |
Deakin Business School, Deakin University | 11 | 7 (in 200) | ||||
The University of Sydney Business School | 1 | - | - | - | ||
Curtin Graduate School of Business | 8 | - | - | - | ||
School of Business & Law, Central Queensland University | 9 | - | - | - | ||
La Trobe Business School, La Trobe University | 12 | - | - | 10 (+ 201) | ||
School of Management & Enterprise, University of Southern Queensland | 14 | - | - | - | ||
Victoria Graduate School of Business, Victoria University | 15 | - | - | 11 (+ 201) |
では、このような評価の違いが発生する理由は何か。それを知るには、MBAランキングがどのような考え方で方法で付けられているのか、つまり評価基準であるMBAランキングの中身を知る必要がある。会社ごとのランキングの評価基準とその基準の評価割合を下表にまとめてみた。なお各ランキングで細かい基準はそれぞれ異なるが、私なりに似通った項目ごとに6つのカテゴリーにまとめ直したものである。それぞれの出典も以下に載せておくので、より詳細な評価基準を知りたい場合は是非そちらを参照して頂きたい。(確認:2018年7月時点)
各世界ランキングの評価基準まとめ;数字は%(筆者作成)
評価基準
(筆者が大まかにまとめたもの) |
Financial Times | Economist | QS |
卒業後の給料の上昇度合いなど | 40 | 23 | 20 |
生徒や教授陣の多様性や国際性(女性率も含む) | 25 | 10 | 10 |
研究機関としての質(教育人、PhD、論文数など) | 20 | 20 | 15 |
転職、キャリアアップのしやすさ関係 | 15 | 37 | 40 |
人的ネットワークの構築しやすさ | – | 10 | – |
起業家としての評価 | – | – | 15 |
合 計 (%) | 100 | 100 | 100 |
出典
Financial Times(FT):https://www.ft.com/content/1bf3c442-0064-11e8-9650-9c0ad2d7c5b5
Economist – Which MBA?:https://www.economist.com/whichmba/MiM/2017/Methodology
QS Global MBA Rankings:https://www.topuniversities.com/mba-rankings/methodology
さてこうして表を見てみると2つのことに気が付く。1つ目が、似通った評価基準を使っている一方で、それぞれの評価基準に対する重み付け(パーセンテージ)は、結構大きくばらついていることである。例えば、FTでは卒業後の平均給与や給与の上昇率が最も重要な評価基準になっており全体の40%もの割合を占めているが、EconomistやQSでは約20%で、FTに比べると半分程度しか評価に影響していない。逆にEconomistとQSでは、転職、キャリアアップのしやすさが全体の約40%を占めているが、FTは15%しかない。次に気がつく点は、項目自体の違いである。例えば、起業家精神のような評価はQSにはあるがFTとEconomistにはない。同様に、Economistだけが人的ネットワークを項目として定めている。これらが、同じ大学でも使うランキングによって、ランキングの順位が異なっている原因である。つまり、闇雲にランキングを見るのではなく、まずは各社のランキングの評価項目の違いを把握し、その上であなたがMBA卒業後に求めるもの(何に価値を置くのか)を考慮し、あなたの考えに近いランキングを選別し活用すべきである。例えば、もしあなたが卒業後の給料アップに重点を置いているのであれば、FTが大いに参考になる。一方、起業やキャリアアップの機会を重視するのであれば、QSまたはEconomistの方が良いかもしれない。
ランキングを活用する際は、客観的な評価方法としても使われていることを忘れてはいけない。自分の所属する会社や転職先の会社が参考にしている特定のランキングがあれば、そのランキングで高評価の大学を選ぶというのも1つの方法である。例えば、オーストラリアにあるThe University of Queensland Business Schoolは、Economist(2017年)では16位と非常に上位にランクインしている一方、FTでは100位圏外でランクインすらしていない。Economistの16位ということは、難関であるアメリカのMassachusetts Institute of Technology – MIT Sloan School of Managementの19位よりも上位である。一方で、FTにランクインしていないため、もしFTで主にMBAを評価している会社での昇進や転職ではリスクになるかもしれない。そのため念のため自分が選んだランキング以外の他の有名ランキングサイトでも順位を確認することをお勧めする。世界ランキングであれば、先程来紹介しているFT、Economist、QSの3つのランキングを確認しておけば間違いないと思う。
世界ランキングがお勧め
オーストラリアMBAの場合、国内向けのランキングにも有名なものが2つほどあるが、外部評価の観点で考えれば、まずはFT、Economist、QSという世界ランキングだけ見ておけば当面は間違いない。ただアメリカMBAを検討中の方にも、是非一度この世界ランキングには目を通すことを勧めたい。理由は2つある。1つ目は、未だにMBAといえばアメリカという考え方が主流のようにも思われるが、実はアジア周辺(シンガポール、中国、インド、本書で主に扱うオーストラリアなど)の国々のランキングも近年急上昇している。もはやMBAはアメリカに留まらず世界中で最も有名な授業の1つである。どうしてもアメリカに行きたい、行かないといけないという理由があればともかく、世界のMBA情勢を把握してから、アメリカ国内のランキングを見に行っても何ら遅くない。2つ目の理由は、本書のテーマでもあるが「コスパのよい大学」を発見するためである。この方法は後で詳しく紹介するが、アメリカでは手出しもできないような上位ランクの大学が、アジアや他の地域なら合格に手が届く可能性もある。全ての可能性を考慮に入れておく方が良いに決まっている。