留学で得られた本当のこと

留学で得られたことは何か?とか行って良かったか?とかよく聞かれますが、そもそも留学で何を得たのだろうかと考えることがあります。実は、得られたことはMBAでも、語学でも、また友達でもなく、(もちらんそれらは得られたことですが)それらよりもはるかに重要で、もし得られたものを一つだけ言えと言われたら、何と答えるか、それを少々書きたいと思います。

 

先に言います。早速結論ですが、留学で一番得られたものは「自分自身を見つめ直し考える癖」だと思います。そして、それこそが人生で一番重要かつ留学での最大の成果であったと言い切れます。

 

もう少し説明したいと思います。まず留学に行くと、私を定義していた色々なモノがなくなります。定義というと難しいかもしれませんが、日本にいて「自己紹介してください」と言われたら何を話すか考えてみてください。私であれば、名前、年齢、出身地、出身大学、勤務先、趣味などでしょうか。

名前:湯淺知英 → まず Tomohide Yuasa というと長くて発音もしにくいので、Please call me TOMO となります。

年齢:年齢を言うこと自体まずないので省略。誰も気にしていない。もちろん、年齢が上だからといって敬われることもないですし。

出身地:私の出身地は岐阜県岐阜市です。日本であれば、地元「あるある」を紹介したいところですが、TOKYOかKYOTOくらいしか認識されていないので、言っても意味なし。

出身大学:私の出身大学は名古屋工業大学なのですが、もちろん名前を言っても分かるわけないです。ちなみに東京大学って言っても同じです。

勤務先:はいこちらも日本なら東証一部上場の(スカイツリーを作った)大林組ですが、まず知っている人はいないので、(Major) Construction company って言うしかないです。

趣味:やっとここで興味を持ってもらえそうなことが言えそうです。

何が言いたいかと言うと、留学中は、あなたの出身地、出身大学、勤務先(外資系は除く)、場合によっては名前もほとんど意味がなくなります。今まで人生で多大な時間をかけて目指した国立大学や、必死で面接を受けた入社して8年も勤めている一部上場企業も、あなたを全然助けてくれません。それが分かると一気に不安になってきます。事実、マンションの契約時、十分なお金を持っていることを証明する書類を提出しなければ、不動産屋は相手にしてくれません。日本では知らず知らずの間に、大小問わず、あなたの会社があなたを助けてくれていたんだと実感するはずです。

 

そしてもう一つ重要なことは、あなたは何も求められていない存在になります。つまりあなたへの需要はゼロです。留学すると、あなたが普段していた仕事はなくなります。えーめっちゃいいじゃんと思うかもしれません。仕事がないなんて夢のようだと。でも少し思い出してみてください。ゴールデンウィークの最後の方、そろそろ仕事しなきゃって思いませんか。あるいはあれが2倍の長さだとして、毎日何をするのか?って悩みはじめませんか。それが2年続くと思った時の気持ちを想像してみてください。誰もあなたに指示する人はいなくなるので、毎日、毎日、何をするのかを全部で目標と立てて、自分で実行する、それができないと、ただの引きこもりになります。特に、バリバリは働いていたり、無我夢中で仕事をしていた、いわゆる真面目な人ほどこの喪失感は大きくなると思います。実は、あなたがしていることのほとんどは、あなたがやると決めてやっていることではないことに気がつきます。上から降ってくる仕事(需要)を、こなすことに慣れきってしまっているので、そういう人は特に、自分で何をするか決めないといけない環境に変わった時に戸惑うのです。多く留学生は感じる「ホームシック」です。私もまさにその一人でした。朝起きる時間も自由、朝食を食べるかも自由、大学に行く時間も(講義より早く行くので)自由、夜いつまで勉強するのかも自由、勉強しないのも自由、友達と頑張って仲良くなるのも自由、ならずに一人で引きこもるのも自由、すべて自由なのです。自分自身で自分に需要や目標を与えなければ、あなたへの需要は何もないのです。

 

つまり留学とは、あなたは周りからは誰?という存在、そしてあなたのことを求めていない環境に、だただ身体一つでいることを経験することだったのだと気がつきます。少しはショックのあまり何もできないのですが、徐々に社会に居場所を作るため、自分がどうやったら社会に貢献できるのかを考えるようになります。ただし、あなたの専門である「仕事」で社会貢献することはできないので、いわば日本でいう休日状態の時、あなたは社会に何で貢献できるのかを考えるのと似た状態になります。ある友人は、留学は、老後が30年早く始まった状態だって言っていました。まさにその通りだと思います。私の場合は妻と二人、仕事を退職し、これから何しよう!状況に30歳で早くも訪れた感じです。

 

私の場合は、まずMBAというコースの中で自分の存在を作るのに必死でした。英語もままならない、ファイナンスやアカウンティングのスペシャリストが集まっている中、勉強でチームに貢献できない。じゃあ、自分は何であれば貢献できるのか。自分とは他人と何が違って、何が強みなのか、を真剣に考えるようになります。私の場合は、MBAのチームで進める課題のプロセス管理や、チームで意見が別れた時の仲介役的存在。また事前に誰よりも関連する資料を集めて概略をまとめて、チームでの議論が深くなるように頑張りました。いわば誰もやりたくないような仕事を率先してやることで、チームは徐々にTomoはいいやつだ!英語はよく分からないけど可愛いやつだ!と認めてもらえるようになります。また学校の外では、コミュニティーに自ら率先して参加したり、インターンシップに行ったりもしました。承認欲求だと言われればそれまでかもしれませんが、重要なことは、留学中は、どんなことであれば自分が承認されるのかを、まずは「自分自身を見つめ直し考える癖」が自ずとつくことだと思います。承認されるものは何か?を自問自答するのです。

 

留学が終わって日本に帰ってくると、MBAは忘れます。英語は一気に話せなくなります。あんなに仲よかった友人やチームメンバーとも徐々に疎遠になります。でも日本に帰ってきてからも忘れていないことがあります。それは、この考える癖です。例えば、人に会うときには、私はいつも自分に会社の肩書はないものと思って人に接します。それでも相手が自分を本当に求めてくれているのか、自分が相手の求めるものを提供できているのか、を考えるのです。会社は全く関係ありません。あなたが違う会社名を名乗っても、あなたとなら一緒に仕事がしたいと思ってくれているでしょうか?そのためには、自分でその強みを強化するしかないのです。今も自費で学校に通ったりして自己研鑽に励み頑張っているのはそのためです。

 

最後に、この癖がつくと、世界の見え方が全く変わります。私は今日本にいますが、それでもその見え方は本当に変わったなーと実感します。事実、今は会社に指示されて仕事をしていません。上司はそう思っているかもしれませんが。会社は自分が社会に貢献する場所やテーマを準備してくれる存在ですが、本当に何を提供するのかは個人である私が決めているのです。周りの人は留学前と何ら変わらない生活をしている、と思うかもしれませんが、同じように見えても、全く違ったものになっているのです。それこそが、留学で得た最も重要なことだと今は断言できます。こればっかりは、留学していない人に説明するのは難しいのですが、あなたの考え方次第で、世界は変わるのです。またどこかでこの話ももっと詳しくできればと思います。今回はこれくらいにしようと思います。

 

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