4.1 日本でMBAは本当に必要か?に対する答え

4.1 日本でMBAは本当に必要か?に対する答え

よく日本で「MBAは本当に必要か」とか、「今は旬が過ぎた」などという記事を見かけることがあるし、MBAの効果に関連し、MBAは本当に役立つのかという疑問はよく聞かれます。なので私も私なりの考えを書いてみます。実は私の会社は社内留学制度を持っている会社なのですが、多くの先輩社員はおそらくMBAの意義や取得の大変さを理解しておらず、「海外に遊びに行く」程度にしか考えていない人も大勢いるように思っています。ただそれは無理もないことだと思う。

日本人のMBA留学生で2018年に卒業する人数は、日本全国で、一般的な2年コースで237人(AXIOM調査より)しかいない。要するに、自分の周りにいる人はMBAについては知らないと、ほぼ考えてよいと思うからです。

(余談であるが、MBA留学実現を阻む一番の壁は、日本の風潮、あるいは自分の所属する社内での不理解にあったりすると私は感じている。理想的な対応は、「頭に来てもアホとは戦うな!」(田村耕太郞著)に書かれている通り、何も対応しないか、好戦的に「何のために行くの?英語の勉強?」などと頭ごなしに言われたら、適当な回答をしてひらりと交わしておくのが無難である。そんな人に説明するだけ時間のムダだからだ。)←当時は色々いわれてましたので、強めのコメントですみません笑(後日追加)
とは言っても、毎日辛い勉強の日々を何ヶ月、何年と続け精神的に貧弱な状態で、心ないことを言われるとどうしても反撃したくなったり、心が折れそうになるかもしれない、と思います。そんな時のためにも、MBAがなぜ必要かという根本的な疑問に自分の中でしっかり答えを見つけておくことは、無意味ではないと思う。なぜならそうすることで自分の中での目的意識が明確になり、外野の声に気をとられず、ただ前を向いて頑張る活力を生み出しやすいと思うからです。

先ほどの疑問に戻り、MBAは本当に役立つのか?の私なりの結論。「MBAは今の日本には不要である。だからこそ必要である。」矛盾しているようだが、要するに今の日本社会(企業体質や文化)においては、有意義に活用されていない。だが将来的に絶対に必要になると思うし、必要にならないとまずい。

なぜか?その理由を説明するには、MBAとは一体何を学ぶのか?に先に答える必要があると思います。MBAで教わる必須科目には、ミクロとマクロ経済学、会計、ファイナンス、統計学、業務プロセス、マーケティング、マネジメントなど多岐に渡っています。1つ1つの科目だけに注目すれば、それぞれの専門知識を持った人間は既に社内にいると思われるかもしれない。しかし、MBAの本質的な目的は、それらの知識習得ではない。それはあくまでも目的達成のための手段である。何もマーケティングや会計学の専門家を多額の費用をかけて育成するくらいなら、会計学出身の学生を雇えばタダだから。ではMBAの本質的な目的とは何か? それは、例えば「0から自分たった一人で会社を立ち上げる時」、あるいは「全く予期しなかった身憎悪の事態に会社が直面した時」、「今すぐ社員の首を切るべきか判断が必要な時」、「会社のある部署全体を廃止すべきか判断すべき時」、「海外進出すべき国や地域を決断する時」など、予測不可能な事態に直面した時や今まで経験したことがない全く新しいタイプの課題に直面した時に、 広範な知識を総動員し、あるいは部内・会社内を飛び越えて専門職の意見を瞬時に聞き分け、重大な意思決定を早期かつ的確にできる人材を育成すること

 

私はMBA留学中日本に帰国できる機会を捉え、元産業再生機構COOで現IGPIの冨山和彦氏の講演会に出席したことがある。その時の話を今でもよく覚えている。「トヨタの社長は、車作りやめる決断ができるのか?」という趣旨の問いかけである。これは、日本型経営に対する本質的な疑問でもある。日本企業は総じて「現場力」は凄まじく高い。それが故、極端な話今まで経営者は誰でも良かった。現場の人間が努力し、改善し、その結果として売上げや利益が右肩上がりの上昇を続けていたからだ。事実、経営者の座につく人は、課長・部長・本部長などという順番で偉くなり、最後の花道のような形で役員になる。多くの場合、課長職で高い評価を受けた人が部長に、部長職で優秀な成績の人が本部長にといった具合に、一般社員に留まらず経営者までもが年功序列的に内部登用される場合が今でも多い。しかし、優秀な課長、優秀な部長、優秀な本部長が、優秀な経営者なのだろうか? 一体いつどこで経営を学んだのだろうか?

確かに人を束ねる立場になれば、人を動かす術、各部署のつながり、お金の稼ぎ方は、実践の中で嫌という程学んできたかもしれない。しかし、経営とは課長や部長、本部長の延長線上に本来あるものではない。例えば車作りの部署で課長や部長としてキャリアを積んできた人が、経営者になって車作りの部署を廃止し、新業態の事業を展開できる能力を備えているだろうか? 建設会社で日本の現場所長や設計部長、営業部長を経て本部長まで昇進した人が、経営者になった途端に、海外の建設会社の社長に会いM&Aを即決したり 、人工知能(A.I.)を使った事業を創設できるか?

 

そうは言っても日本企業は、世界でもまだまだ通用すると思っている人も多いし、自分もそう思っているかもしれない。ただ、冷静に分析すると、そうできたのは現場力のお陰に他ならない。今まではトップが舵を切らなくても、現場社員が環境や顧客の変化をいち早く察知し、「改善」という形で徐々に事業内容を修正することで何とか時代の変化に対応してきた。その結果として、会社が存続できていただけのこと。しかし、ビジネス環境の変化の速度はもはや現場では対応できないレベルまで上がってしまった。

TVで圧倒的なシャアを誇ったシャープは経営危機から2016年に台湾・鴻海精密工業に子会社化された。東芝は経営悪化から2017年に東証2部に降格、今も上場廃止になる可能性が心配されている。日本最大手の航空会社、日本航空は2010年に経営破綻した(その後、稲盛和夫氏のもと経営再建を進め、2012年東証への再上場を果たした)これらの事例はどれも現場の人間に主な原因があるだろうか? 会社を窮地に追い込んでしまった根本原因は、経営者が適切な決断を欠いたことではないか、と思われる。もう一つ重要なことは、潰れてはいないその他多数の日本企業も、その世界での位置付けは毎年着実に低下し続けているという事実である。もはや日本企業の高い世界的地位など過去の遺産に過ぎない。それは、企業の時価総額の世界ランキングを見れば明らかである。例えば、約25年前の1992年時点で時価総額の世界トップ50に名を連ねた日本企業は10社あった。約10年前の2008年末には3社に減少、2017年にはいよいよTOYOTA一社を残すのみとなっている。しかもそのTOYOTAのランキングも、各同年で世界13位→22位→42位ともうすぐ50位圏内からも脱落しそうな状況である。(これを聞くと思い出すのが、東京大学などの世界ランキングである。Times社が毎年発表しているTHE World University Rankingsによれば、2011年の26位から2018年には46位まで低下した。もうすぐ50位圏内から外れることも考えられる。)現場がこれだけ頑張っているのに世界から置いていかれているということは、何か根本的な問題があるからである。

 

幸いなことに政府もこのような状況を放置しているわけではない。2015年以降安倍政権は「生産性革命」を訴え日本企業改革に取り組んでいる。とても喜ばしいことだが、1つ注意が必要と思う。自分の所属する会社が「現場の生産性を上げよう!」などという取り組みに終始していないか冷静に評価しする必要がある。

「生産性が上がらない部署は廃止。人的資産は他の新しい事業に注ぐ!」例えば、こうしが経営者主導の生産性向上こそが生産性革命が「革命」と呼べる所以である。これは決して現場の権限ではできない。自分の部署を統廃合したり、全く新しい組織構造に変えられる力を持っているのは、あくまでも現場ではないのである。繰り返しになるが、だからこそ日本企業にとっての最大の課題は、経営者の質を上げることである。私は生産性革命の成否の最大の鍵は日本の「経営者改革」ではないかと考えている。そのためには何が必要か?本来経営者は、課長や部長の延長線上できるような管理職の延長ではない。 経営学を学んだ「経営の専門家」が行うべき専門職業なのである。そしてMBAは、その専門職を育てるために生まれた学問体系である。だから年功序列で経営者を送り出すような日本企業にとっては、MBAは不要に違いない。しかし、その状況が続く限り、日本は不況・世界からの脱落という状況から抜け出せないのではと思っている。

 

ソニーは2012年には 4,567億円という過去最大の大赤字を計上し窮地に追い込まれたが、同年平井一夫氏らからなる新経営体制に一新。2016年にほぼ2008年以前の業績水準まで回復、その後も順調に業績を回復させている。あくまでも推察であるが、リストラはあっても、大幅に新しい社員に入れ替えたとは思えない。同じ社員の会社でも、社長が変わるとあそこまで業績も変わるものかと思わされる。日本復活の鍵は、経営者改革だとして、本当にMBAが必要なのか? と疑問に思う人がいるかもしれない。アメリカを見てみる。アメリカは言わずと知れたMBA大国である。事実、ハーバード大学ビジネススクールの卒業生は、年間で約900人。ハーバードを含めた全米トップ20校の2010年の卒業生は1万6580人。トップ36校まで広げれば2万人を超えるMBAホルダーを世に送り出している 。日本人留学生の2年コースのMBAホルダーが全て合わせて年間237人であることを思い出すと、その差は歴然としている。そしてアメリカではCEOの約6割が、MBAホルダーと言われている。つまりアメリカでは、経営者を専門的に育成するMBAという名の教育環境が成熟し、その中から実際に多くがCEOになって会社経営を担っている。結果なのか偶然なのか、2017年時点で、時価総額の世界ランキング50社うち約6割にあたる31社はアメリカ企業によって占められているのだ。 世界の潮流は未だアメリカが握っている。一方、日本はその足元にも及ばない。

 

MBAに行くべきか悩んでいる人に伝えたい。MBAは確かに今の日本には不要だと思う。だからこそ、その状況を変えるために絶対に行った方がいいので? 周りや世間の「MBAは本当に必要か」とか、「今は旬が過ぎた」などという意見は、上で述べた理由から、ほとんど気にしなくてよい気がする。きっと、今の日本は、彼らのことを慮ったり 、悠長に立ち止まって考えている暇はない。日本で唯一50位以内のTOYOTAですら、来年にも圏外へ消えよとしている。シャープや東芝のような事例は、あくまで予兆に過ぎないとも思う。家電やITなど特に外部環境変化の激しい業界で、経営力不足の問題が先行して顕在化したに過ぎず、そうした変化が比較的少ない業界、そしていずれは農業や医療、建設業界などを含めた全ての業界で、遅かれ早かれ同じ問題に直面する。それを変えるには、経営層を生み出す仕組み自体を変えなければいけない。それから目を晒すことは、会社の価値を下げながら会社を延命させるだけかなとも思う。現時点で経営学を体系的に学べる教育機関がMBAしかない以上、まずは行って何かを掴み取るしかない、というのが私の考え方です。

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